MAKI OHGURO ON–LINE LIVE 2020 〜待たせた分だけ10倍返しーっっ!‼︎🔥〜
ライブレポート
2020年、新型コロナウイルスの影響により音楽業界は大打撃を受けた。特にこの春からライブ・ツアーを計画していたアーティストにとっては、ライブの延期・中止を余儀なくされ、数多くのアーティストが活動自粛せざるを得なかった。大黒摩季もその一人、4月から行われる予定だったライブツアー「MAKI OHGURO LIVE TOUR 2020」、当初は延期を予定していたが、政府からのイベント等の開催制限要請に基づく感染防止策としてイベント・コンサートなどの動員を50%以下とすることですでにチケットを購入している方の来場を一部お断りする必要が生じたため、大黒摩季自身のポリシーとして「 お客様の選別をしてはいけない。 」ということから止む無く中止に至った。
ファンにとっても非常に残念な事実。ではあるが、昨年末50歳を迎えた大黒が「50 th/50try」と称し,50の目標を立て50本ライブをしようと意気込んでいただけにその無念さは想像に難くない。しかし、すぐさま彼女は活動を開始。様々な配信番組に出演、公演中止となったライブ20本を開催日ごとに「同じ時間を共有しましょう!」と自宅からの生配信をやり続け、加えて3月より自身の新曲を6ヶ月連続配信、そして7月には無料オンラインライブ開催、そして8/27 遂に大黒摩季初の有料オンラインライブ「MAKI OHGURO ON–LINE LIVE 2020 〜待たせた分だけ10倍返しーっっ!‼︎🔥〜」を開催する運びとなった。
開催日当日、19:30、アカウントサイトには、過去のMVクリップ集が流されている。 90年代の懐かしい映像がふんだんに現れ、これから始まるライブへの期待感を高めている。
高々と右手を振り上げて歌う大黒の写真が掲げられたサイト画面を注視しながら待っていた定刻20:00きっかり、画面はライブ会場、ビルボードライブ東京へと切り替わった。
ステージ上にはすでにバンドメンバーがスタンバイ。通常のライブと違い、スタッフは皆マスクとフェイスシールドを付け物々しい、そして各メンバー間がアクリル板で仕切られ、ソーシャルディスタンスも万全。そんな光景の中、大黒摩季登場。ペパーミント・グリーンの爽やかに揺れるポンチョに、白のハーフパンツの夏らしい出で立ち、「まずは楽しもう」と!第一声。
オープニング曲はスラムダンクの挿入歌「あなただけ見つめてる」。画面の向こうからこのライブを固唾を飲んで見守っている数千人のファン一人一人に語りかけるように歌い出す。大ヒット曲の強み、一曲目から視聴者への掴みはバッチリ、曲間では「皆さん一緒に〜」と、観客のいない客席に向かって大きく手を振る。画面に映っている姿はまさに通常のライブと変わらぬパフォーマンス。そのテンションのまま、「独身者は手を挙げてーっ!そして恋待ち族のみんなに最高の夏が来ますように〜」と歌われたのは「夏が来る」。続いてアニメ名探偵コナンのオープニングテーマ曲の「Lie, Lie, Lie,」「いちばん近くにいてね」と、大黒摩季のキラー・チューンと言うべきラテン・ナンバーが続き、気づけばこちらも画面の向こうに煽られ立ち上がってしまった。(笑) 周囲の目を気にせず室内で暴れられる、そんなライブの楽しみ方もあるのかと新たな発見だった。
それにしてもオープニングから一気に聴き馴染みのある大ヒット曲を惜しげもなく4曲連続披露のセットリストに、ヒットメーカーならではの強さを思い知らされた。演奏が中断し、初めてのMCタイム。聞こえてくるまばらな拍手の音で、ここが無観客ライブの会場であることを思い出す。「改めまして、皆さ〜ん! 今晩は、大黒摩季です。 今日は、ファンクラブの医療従事者、介護従事者の皆さんや色んな方々からのアドバイスをいただき、スタッフも私達もしっかり感染対策をして、ステージにパーテーションも立ててしっかりと頑張っていこうと。ですので、皆さんも安心して、この時間は私達の音楽に身を任せて ストレス発散!自粛で委縮した感情も解放して!、辛い現実を忘れて夢中になって“心のお掃除”しちゃいましょう! 今日は目一杯楽しんで下さいね!」
自粛期間中は、ひたすら作曲に没頭していたそうだ。その間に、なんと大黒摩季人生初、 3月から連続楽曲配信リリース…8月まで6ヶ月間ひたすら新曲を発表し続けている。本人曰く、「今の私をいかしてくれた社会への恩返し」として、それらの曲を今夜は披露していこうと、という前置きあってまずは、3月に配信されたナンバー「Let’s☆Go!! Girls💋」。
本当は名古屋ウィメンズマラソン公式ソングとして会場でお披露目されるはずだった曲で、「闘う女子たち、LGBTQの皆さん、全ての頑張る女子のために!」 といって紹介されたナンバーはエレクトロなアレンジとロックテイストが融合した今の大黒摩季を表現したモダンなナンバー。そのモダンな中に大黒の情熱ボイスが絶妙に絡むポジティブ&キュートな応援歌だ。
暗転後、続いてはジャジー&ブルーズなピアノのイントロに導かれてゴスペル調のコーラスから始まった「OK」。大黒摩季デビュー28周年の記念日に配信されたナンバーは、コロナ禍での不安を打ち消す希望の歌。ソウルの女王アレサ・フランクリンの再来のような荘厳さに満ち、心に染み入る晩夏の思い出となった。
続いてのMCでは、大のオリンピック好きな彼女、サーフィンがオリンピック競技になったということで、盟友であり、大黒組の若頭・光永亮太と共に作り上げたビーチソング「Shaka♬シャカ You’ll be all right」 を、ゲストに光永亮太本人も交えて披露。
アコースティックな響きが癒しを運んでくるリラックスでデラックスなソング。アーシー&ナチュラル、二人のハーモニーがハッピーを呼んでくる。ラブ&ピースな温もり、穏やかな表情、この自然体の姿が、現在の大黒摩季の本質なのだろう。
そして、次の曲は8/31配信2曲のうちの1曲、今年7月、全国に甚大な被害をもたらした豪雨令和2年7月豪雨、コロナ禍の中でボランティアにも行けずただ祈るしかできない状況の中で作り上げたバラード「Pray for you ~ 7月のélégie ~」。ゲストにJAZZ界の奇才、フリューゲルホルン&ボーカルのTOKUを招き入れて奏でた魂の歌、このスピリチュアルな演奏は、まさにライブならではの一触即発な光を放っていた。そして低音から高音の繊細なウィスパー、さらに大黒摩季ならではのエモーショナルな泣きのハイトーン…一曲の中に込められた多様な心情を多彩なヴォーカルで見事なまでに表現している。
この曲も50歳を迎えた今の大黒摩季でなければ再現できない音楽、世界がこんなになってしまった今だからこそアーティストの本質が見極められる。そういう意味では、現在の大黒摩季は、なによりも自由に音楽をクリエイトしている、そんなまっさらな心境を吐露した新曲披露コーナーだった。
と、ここで換気タイム。ライブ開始からすでに1時間以上が経過していた。
新型コロナの感染防止の観点から必須の時間になるが、画面でライブを1時間以上凝視し続けているわけだから、ライブに夢中になって気付かないうちに生身のライブとはまた違う疲労(主に目か?)が蓄積しているに違いない。こういった間の持たせ方、橋渡しタイムは配信ライブにとっては必須な時間なのかもしれない。
10分程の休憩を挟み、いよいよ後半戦に突入。衣装もガラッと変え、“ロック・アーティスト”大黒摩季が登場。その姿はぜひ自身の目で確認して欲しい。
「後半行くよ!」と、始まったのは「熱くなれ」。そして「チョット」「永遠の夢に向かって」と息をつかせぬ怒涛の展開。さらに今の大黒摩季ならではの「Anything Goes!」とイケイケ&ノリノリのアップテンポな3曲が続き、一気に本編を締めくくった。
それにしても後半6曲ぶっ続けで、ラストに近づくにつれパワーが増していくボーカル力のすごさ、へたることもない高音の抜け、貫禄、まさに自身の作った楽曲が自身を大黒摩季たらしめている世界へ持っていってしまうというマジック、どんなに分厚いバンドサウンドも凌駕してしまう圧倒的なパワー感は一体彼女のどこからやってくるのだろうか。
最後に手を天に向けて振りかざす大黒。
「ありがとうございました〜」 そう言ってステージを後にした。
本編終了後のアンコールも配信ならではだろう。会場に響くスタッフの小さなアンコールと画面に現れたアンコールの文字に気づき、視聴者も一斉にアンコールを始める。それはチャットの書き込みでだ。急増したアンコールを待つ書き込みは壮観であった。
アンコール、再び現れた大黒は、先ほどとは打って変わって今度はカラフルなシフォンドレス風のワンピース姿。まずは、観客のいない会場に向かい、数多くの画面を見つめている視聴者をまっすぐ見据えて語りかける。まるで隣人に話しかけるかのように
「自分のお母さんやお父さんを思えば、50歳の頃はもう、肌もカサカサして海辺のお家かなんかで隠居でもしている予定だったわ、それがこんなスーパーサイヤ人になっちゃって!皆さん、私を大黒摩季にしてくれてありがとうございます!ワタシの人生もいろいろありまして(苦笑)、今年は「夏の甘い恋」でもしようと思ったらステイホーム、代わりに猫だけ増えました(笑) というわけで私、彼氏を雇いました!皆さんも共有ください。素敵なラテン系です❤8/31に連続配信第6弾として「Pray for you 」と同時にリリースする「Dee Dee Dee Dee Deeper Love 〜 恋のソーシャルディスタンス 〜 feat.當間ローズ」 から當間ローズ君!」
長身イケメンの當間ローズ登場。生まれはブラジル静岡育ち、母がブラジルとスペインのハーフ、父がイタリアと日本のハーフのスーパー・ラテンMixtureな彼は、まさしくラテンの貴公子たる風貌、だけど腰が低い。そんな若い彼との切なく情熱的なデュエット、また一つ新しいタイプの大黒摩季のスタンダード曲登場か、と思わせた。ステップもセクシーな二人のラテンダンスもみどころ。感染防止対策のために立てられたアクリル板越しのやりとりはまさに“恋のソーシャルディスタンス”。なんとも悩ましい楽曲世界を視覚化してくれた。
「さぁ、最後はあの曲で!」
大黒が本日登場のオールキャストを呼び込む。
「LOVE&PEACE を感じながら 日本も、世界もみんな一つになりましょう! 「ら・ら・ら」!」
やはり、この曲は大黒摩季の代表曲にして大ヒット曲、避けては通れない。
途中、「みんな年だし〜」の歌詞のくだりを「関係ない」と言い放ち、「無観客と言っても必ずやるこのコーナー」と言って 「ら・ら・ら」のフレーズをメンバーに歌わせたり、聞こえないけど視聴者に大合唱させたりとサービス精神も満載、LOVE&PEACEを存分に感じさせるエンディングだった。
景色が変われば未来も変わる。いつかその日が訪れるまでみんな元気でいようね。そんな前向きなメッセージ、前向きな歌、前向きなサウンド。終始大黒摩季の輝きが笑顔を引き連れてくる、そんな美しくも楽しい配信ライブだった。
配信ライブでこれである。生のライブを体感したら、それは日ごろのストレスも鬱憤も憂鬱も何もかもを吹っ飛ばしてくれるに違いない。このライブの告知に ” #コロナを吹っ飛ばせ ” というハッシュタグが付けられていたが、まさにそのパワーが彼女のライブにはあるのだとも実感すると同時に、近い将来、生のライブが開催されることを期待せずにいられなかった。